2018年1月8日月曜日

老人と海


1952年
アーネスト・ヘミングウェイ
福田 恆存訳

えっと、僕は、翻訳者にもすごくこだわる。というのも、翻訳が変わると文章は大きく変わると思っているから。言い回し。比喩表現。そういうのをより美しく写すことができるかどうかは翻訳者に寄っているからと思ってる。
柳瀬さんのユリシーズは読んでみたいが、それ以外を嫌厭しているのと同じで。

さて、ヘミングウェイは初めて。
1952年というのは、どういう年かよくわからないけれど、アメリカは世界のトップに躍り出たはずの時代かなと思う。第二次世界大戦が終わった後だし。誰か知ってる人教えてほしい。あまりに歴史に無知なもので。

さて、老人の描写が素晴らしい。僕は正直、釣りのことなんてわからないけれど、漁師という仕事はこういうものなんだろうと思った。"白鯨"や"重力の虹"が百科全書的本と言われており、それに類似する感じを抱いた。すごく漁師に詳しくなったような気がしたから。
僕はひねくれているから、人は幸せになれない(作り物の中では)とどうしても思ってしまって読み進めていく。せっかくの大魚を釣り上げたのに、老人は岸につかず亡くなってしまうのではないか、魚が外れて海に沈んでしまうのではないか、そう心配しながら読み進めた。大魚を釣り上げた時点でまだ半分のページが残っていたから、あとはどんなドラマが待つのだろうと不安になりながら。
それもこれも、ヘミングウェイが生み出した、いや、元々存在していた自然の残酷さ厳粛さ偉大さが表現されすぎて、人間がちっぽけな弱い微かな存在であることが認識されてしまう。だから、不安になる。
「老人の四肢は痩せこけ、項には深い皺が刻み込まれていた。熱帯の海が反射する太陽の熱で、老人の頬には皮膚癌を思わせる褐色のしみができ、それが顔の両側にずっと下の方まで点々と広がっている。ーーーーこの男に関する限り、何もかも古かった。」
目を除いては。 
それでも、漁にでる老人の年齢はいくつくらいなのだろうか。違和感がある。
少なくとも、四肢はよく動いているし、認知機能も維持されている。当時の平均寿命が68歳程度みたいなので、それを思うと、それよりもだいぶ若いんだろう。50歳代後半くらいかな。今だと全然年寄りに見えない。
僕の中で老人というと80歳とかでなかなか自立した生活ができない、できていても危なっかしいと思われるのに(もちろん、何もかも自立した老人は存在するが)、この老人は元気すぎる。

それもこれも、時代背景が違うからだ。でも、老人は確実に脱水だ。正しいのかな。なぜ、気が遠のいたのか?

解説を読んで。
ハードボイルドの作風ということでそういえばヘミングウェイがあがってたな、ハードボイルドってのは、つまり、心情を表現せず、外見のみで内面も表現していく散文ってこと?
また、原文を読まないとわからないのじゃないかと思う。

読書メーターで、いろんな人の感想を読んで。
ライオンという象徴に言及をしていることが多い。確かに、ライオンとはどういう概念で生まれるのだろうか。
ふと、獅子座を思う。ヘラクレスと勇敢に戦った人食い獅子。ヘラクレスには負けはしたが、ヘラは獅子を星にしてくれた。それが獅子座。
アメリカにライオンなんて存在したか?
アメリカライオンはピューマのことらしい。でも、ピューマは北米の生き物で、現在は絶滅の危機にひんしているけども、ローキー山脈とか南は南米大陸南端のパタゴニア平原にいるらしいんだけど。
でも、この老人はキューバだから、いや、正しくは、ヘミングウェイがキューバに行った時に書いただけだから、ヘミングウェイの頭の中にあるライオンはどれのことか分からないけれど、少なくともピューマのことじゃないと信じたい。だって、ピューマって貧相なんだもの。
ベルクマンの法則(寒いところでは大きくなって(体表面積を小さくしたいんだって)、暑いところでは小さくなる)にのっとっている生き物なんだと。アレンの法則も類似したことらしい。
ピューマは小さく見えるんだもの。それに、亜科もライオンやヒョウのヒョウ亜科じゃなくて、ネコ亜科だし。
とすると、やっぱり、百獣の王のライオンを示唆してるんだろうな。ホメロスがライオンを百獣の王と表記したらしいけど、元文献がなくてよくわかりません。 

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